プーログ

ジャーナリストから転身 40代妻子持ちが自由に生きてみた

無職父と小5女子の我流空手|わずか半年でトーナメント決勝|超巨大な相手と戦う≪後編≫

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月以降続けていた親子空手の連載も、次回が最終回になります。

 

今回は「トーナメント決勝」の後編、ついに、最強の黒鉄女子(くろがねじょし)との戦いに決着がつきます

 

序盤は完全に娘が勢に立たされましたが、後半は攻守逆転を繰り返す激しいバトルになりました。

 

想像以上に厳しい戦いになったフルコンタクト空手のトーナメント試合――。

 

6カ月に及ぶ地獄の猛特訓で、娘は見事優勝を勝ち取ることができたのでしょうか。

 

では、最終決戦のもようを(少し長くなりましたが)ご覧ください。

前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。姉はついに決勝の舞台に上ったものの、序盤で大苦戦を強いられる。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

戦略の切り替え

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名門道場に所属する黒鉄女子の策にはまり、危うく「致命傷」を負わされるところだった娘。

 

結果的に「技あり」こそ免れたものの、強烈な顔面への一撃により、娘は完全に劣勢に立たされた

 

試合に集中するあまり、大声で指示を出すセコンドの声は、彼女の耳に届いていない。

 

だが、彼女自身、自分が押されているのはよく分かっている。

 

 

試合開始から約30秒――。

 

 

序盤の失点を挽回すべく、ここで娘は戦い方を改める。

 

至近距離での攻撃を断念し、蹴りを主体にアウトサイドから応戦するスタイルに切り替えたのだ

 

 

本来、遠距離からの攻撃は、リーチの長い選手に有利なポジションといえる。

 

少なくとも、大柄の相手にとるべき策ではない。

 

 

ただ、彼女の強みは懐に入って打つパンチではなく、あくまでも「蹴り」だ。

 

その選択は間違っていない。

 

何より娘の蹴りは、父の第6腰椎を粉砕するほどの破壊力を秘めているのだ

 

 

とくに前蹴りはこの1か月、試合を意識し、徹底的に稽古した。

 

ジュニアの大会では、前蹴りの上手な選手が上位に食い込む傾向がある。

 

日課としていた「バランス訓練」も、実はその一環だった。

反撃ののろし

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娘は、強引に前に出て戦う戦法から一転、一歩下がってガードを固めた。

 

黒鉄女子はこれを勝機とみて、大型ブルドーザーのような圧力をかけながら、右の上段回し蹴りを繰り出す。

 

この攻撃に合わせ、娘は相手のボディーに重い前蹴りを叩きこんだ。

 

 

ドスン!

 

 

反復練習は裏切らない。

 

娘の放つ前蹴りは、黒鉄女子の巨体を1mほど吹っ飛ばした。

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巨躯が宙に浮く予想外の光景に、会場がどよめく。

 

これに焦ったのか、黒鉄女子は再び前に出ようとする。

 

ただ急いで距離を縮めようとするたびに、娘に前蹴りで押し返される。

 

飛び込んでは押し返され、押し返されては飛び込む姿は、まるで輪ゴムのついた水玉風船のようだ

 

試合の残り時間が半分を切ったところで、ようやく娘は黒鉄女子に一矢報いることができた。

恐怖の十六文キック

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ただ、娘の攻勢も長くは続かなかった。

 

腕組みしていた相手陣営のセコンドがこの日初めて立ち上がり、叫ぶ。

 

前蹴りを返せ!

 

この指示を境に、黒鉄女子は「地獄コンビネーション」を中止し、巨大な前蹴りで反撃に出る。

 

その迫力は、往年のレジェンドレスラー「ジャイアント馬場」が放つ十六文キックさながらだ

 

 

実際、ガードの上から一発もらっただけで、娘の身体は後方に大きく跳ね飛ばされた。

 

さらにもう一発、除夜の鐘を突く撞木(しゅもく)のような重い前蹴りが一直線に飛んでくる。

 

またもやガードごと後方に押しやられる。

 

体格差からしても、まともに食らえばただでは済まない。

 

相手陣営のセコンドは激しく拍手しながら、「そのまま外に押し出せ!」と鼻息を荒げた。

 

 

確かに、このまま押し切られるのはまずい。

 

判定でのマイナス材料になる上、こちらに傾きかけた流れが再び変わる恐れもある

 

 

娘がコートのラインを割るまで、あと少しのところに迫る。

 

黒鉄女子は「とどめ」といわんばかりに、相手を踏みつけるような前蹴りを放った

反復練習の力

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実は娘は、この瞬間を待っていたのだ

 

あえて反撃を避けたのは、黒鉄女子から「渾身の一撃」を引き出すことにあった。

 

嫌というほど練習を重ねてきた、上段前蹴りでの「カウンター」をとるためだ。

 

 

かくして、黒鉄女子の「とどめの前蹴り」は、娘のバックステップによって空を切る。

 

黒鉄女子は勢い余ってバランスを崩し、前のめりの体勢になった。

 

そこにすかさず、娘は狙いすました上段前蹴りを放つ。

 

ゴチン!

 

娘が繰り出した渾身のカウンターが、黒鉄女子の顔面を跳ね上げた。

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練習以上に、よどみのない動きだった。

 

 

「ピー!」

 

 

副審の一人が「技あり」を訴え、試合が一時中断される。

 

 

決まったか!?

 

 

残念ながら別の副審がこれを認めず、惜しくも「技あり」は流れた。

ラスト15秒前の攻防

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第1話から連載にお付き合い頂いている方は、お気づきかもしれない。

 

 

娘がまだ「あれ」を使っていないことを。

 

 

本大会ではこの土壇場のタイミングに至るまで、娘は一度も我流空手の奥義「逆雷」(さかいかづち)を出していないのだ

 

全国大会を制したチャンピオンの奇襲にも成功した、あの「変則型の上段蹴り」である。

 

切り札として温存していたというよりは、最後の最後で自然に出た「得意技」だったのかもしれない

 

 

残り時間15秒――。

 

親子でみた夢に、現実が重なる瞬間だった。

 

ここから先の光景を、僕は一生忘れないだろう。

土壇場の一撃

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主審による試合再開の合図と同時に、娘は相手の右わき腹を一点に見つめながら一気に距離を詰める。

 

そして、そこに左の突きを叩きこむ「ポーズ」を決めた。

 

これをガードしようと黒鉄女子が膝を落とす。

 

いわずもがなこの攻撃は、引きこもり中年男と空手少女が二人三脚で編み出した最終兵器「逆雷」につなぐためのフェイントだ

 

娘は剛弓の弦を引くように、さらに深く背中をねじり上げる。

 

 

父:「くる!」

 

 

次の瞬間、身体に溜めた「ねじれの力」を一気に解放し、右足を鋭く跳ね上げた。

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黒鉄女子からすると、娘が腰をひねる動作は「全力の突きを放つための溜め」にみえたに違いない。

 

 

しかも、放たれた上段蹴りは雷光のような超高速のスピードで死角から迫りくるのだ。

 

 

そのため、ヒットする直前まで接近する蹴りに皆気づかない。

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娘は、心と体を限界まで追い込みながら、この技を体得した。

 

あまりの辛さに泣き叫び、ときに咆哮を上げながら、磨き上げた一撃だ。

 

半年とはいえ、研鑽(けんさん)にかけた「熱量」がまるで違う。

 

つまり、かわせる道理はないわけだ

 

 

パン!

 

 

娘が繰り出した「逆雷」は、最強のライバルの顔面をまともに捉え、落雷に似た小さな破裂音を響かせた。f:id:ueaki:20220302170911j:plain

 

 

「ピッ!」「ピッ!」

 

2人の副審が同時にホイッスルを鳴らす

 

 

妻は「やったぁ…」とつぶやき涙した。

 

3位だった息子はいじけて再び個室トイレに向かった。

 

僕は興奮のあまり、鼻血を噴き出した。

 

師範代は「ナイスゥ~ナイィィス!」と不可思議なイントネーションで喜びを爆発させていた。

 

 

今度こそ、満場一致の「技あり」だ

 

 

黒鉄女子は、事態を飲み込めずにいる。

 

え、えっ?

 

目を見開いてきょろきょろする。

 

そしてすべてを悟った瞬間、娘に向かって“苦笑い”してみせた。

 

生まれついての王者は、ハートも規格外にタフだった。

 

 

その後まもなく、赤い袋が投げ込まれ、試合は終了。

 

空手を始めて半年、地獄の猛特訓を潜り抜けた娘が、見事トーナメントを制覇した。

 

次回、最終回に続く

無職父と小5女子の我流空手|わずか半年でトーナメント決勝|超巨大な相手と戦う≪前編≫

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月から続く「親子空手」の連載も、残すところあとわずか。

 

今回はトーナメント決勝戦で、娘と最強のライバル「黒鉄(くろがね)女子」が激突したときの話題をご紹介します。

 

圧倒的な強さで勝ち上がってきた両者だけに、意地と意地がぶつかり合い、とても見ごたえのある試合になりました。

 

その白熱した決勝のもようの「前編」をご覧ください。

 
前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。姉は主催団体所属選手を激戦の末下し、ついに決勝の舞台に上った。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

努力の果てに

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「私もやってみたい!」――。

 

フルコンタクト空手に出会って半年間、娘は弟とともに毎日欠かさず厳しい稽古に励んだ。

 

 

持ち手が千切れ飛ぶまでミットを打った。

 

手製の水袋を破裂するまで蹴り込んだ。

 

筋トレやバランス訓練なども毎日こなした。

 

体中あざだらけになるまで姉弟で殴り合った。

 

 

もちろん、我がの子のために「人間サンドバック」になった僕も無傷では済まなかった。

 

ヘルニアの悪化により足の親指がしびれ、指が激痛に見舞われる手根管症候群を患い、児童虐待を疑われ、息子の友人から怖がられ、ご近所から奇異の目でみられた。

 

 

それでも、プー親子は過酷な稽古をやめなかった

 

 

近所で噂されても、心無い若者らに嘲笑されても、無許可で撮影されても、謎の老人に法螺(ほら)を吹かれても、来る日も来る日も、ひたすら修行に励んだ。

 

公園の周りを頻繁に警察が巡回していたのは、ともすると、偶然ではなかったのかもしれない

 

だがその結果として、いま、娘はトーナメント決勝の舞台に立っている。

 

生れてはじめての「ひたむきな努力」が実を結んだのだ。

規格外の相手

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とはいえ、コートのなかで向き合っているのは規格外の相手「黒鉄(くろがね)女子」だ。

 

小5にして160㎝近い長身を誇り、娘との身長差は10㎝どころではない。

 

まるで大人と子供だ。

 

否、蟻と象だ。

 

小人とガリバーだ。

 

 

何より厄介なのは「体重差」だ

 

娘も大きな方だが、それでも黒鉄女子とは10㌔以上のウエート差があるに間違いない。

 

そんな最強の相手「黒鉄女子」に、無職の父直伝「我流空手」は通用するのか――。

 

 

勝戦ならではの張り詰めた空気のなか、セコンドにつく妻も師範代も、緊張の色を隠せない。

 

コートを取り巻く観客に混ざって、僕も心臓を激しく鼓動させていた。

 

 

ただ一人、娘だけがものおじせずにいる。

 

コートの外側から見ていても、凄まじい気迫がひしひしと伝わってくる。

 

空手のロマンを追ううちに、娘は確かな成長を遂げたのだ

 

そんな感慨に浸るなかで、ついに決勝戦が始まった。

 

「はじめ!」

天将奔烈

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娘が大きく踏み込むと同時に、黒鉄女子は攻撃を仕掛けた。

 

天から降り注ぐ流星群のごとく、黒鉄女子の「連続突き」が容赦なく娘を襲う。

 

長身から繰り出される巨大な拳は、ラオウの奥義「天将奔烈」(てんしょうほんれつ)を彷彿させる迫力だ。

 

皆、この技に手も足も出ず、やられている。

 

 

娘のセコンドにつく師範代が、絶叫に近いトーンで指示を飛ばす。

 

「下段を返す!下段を返して!」

 

残念ながら、剛拳を浴びせられ続ける娘にそんな余裕はない。

 

 

防戦一方だ

 

 

ただ、決勝まで勝ち上がった娘の強さも伊達ではない。

 

娘は、激流をさかのぼる鯉のごとく、パンチの連打をガードしながら相手ににじり寄り、秘技「つるべ返し」で反撃に打って出ようとする。

 

そんな娘の姿が、ふと金太郎に重なった。

恐怖!地獄のコンビネーション

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暴風雨のような攻撃のなか、じりじりと相手との距離を詰める娘。

 

ただ相手陣営にとって、「強引な反撃」は織り込み済みだ。

 

黒鉄女子は、連続突きを繰り出した後、ここぞといわんばかりに左右の上段回し蹴りを交互に放つ「地獄のコンビネーション」を開始した。

 

「左パンチ」「右パンチ」「左ハイキック」「右ハイキック」という単純な組み合わせながらも、攻め入る隙が無い。

 

とくに長身を生かしての上段蹴りは、水平に近い角度で飛んでくるため、段違いの破壊力だ。

 

水平キックを腕でブロックするたびに、娘の身体は神社の鈴緒のように右へ左へ激しく揺れた。

 

 

もっとも、黒鉄女子の隠し玉に「上段蹴り」が絡んでいるのは予想の範囲内だ。

 

試合前、娘には「上段蹴りさえもらわなかったら十分に勝機はある」と伝えていた。

 

 

実際、娘はこのアドバイスを忠実に守り、東へ西へと吹き飛ばされながらも相手の攻撃をすべて防いでいる。

 

そしてついに、娘は暴風雨のような攻撃の間隙を突いて相手の懐まで踏み込み、反撃の糸口をつかんだ。

 

 

次の瞬間。

 

 

信じられないことが起きた

 

 

「バチン!」

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黒鉄女子の懐に近い位置で、「急角度のハイキック」が飛んできたのだ。

名門道場の緻密な戦略

僕:Σ( ̄□ ̄|||)

 

妻:Σ(゚Д゚)

 

師範代:(@ ̄□ ̄@;)!!

 

 

完全に、一杯食わされた。

 

完全に、虚を突かれた。

 

完全に、手のひらで踊らされた。

 

 

地獄のコンビネーションは撒き餌(まきえ)に過ぎず、「急角度のハイキック」こそが相手陣営の隠し玉だったのだ

 

 

つまり試合が始まった時点で、娘は巨大な渦の中心に仕掛けられた罠に引き寄せられ、相手の計画通りに仕留められたのだ。

 

 

名門道場の名に恥じぬ、何と奥行きのある作戦なのか。

 

この悪夢のような技は、小学生の空手初級者にとって初見殺しとなる「攻略不能の一手」だ。

 

こうしたシンプルで効果が高い作戦ほど「良質な戦術」といえるに違いない。

 

 

黒鉄女子のセコンドも「勝った」と言わんばかりにしたり顔を決める。

 

そのいやらしい表情から察するに、この悪夢のような技は、名門空手道場のなかで受け継がれてきた「秘策」かもしれない。

 

 

また、黒鉄女子も相当練習を積んだのだろう。

 

恵まれた体格に胡坐(あぐら)をかかず、勝利に万全を期す姿勢には、もはや称賛の言葉しか出てこない。

判定のゆくえ

「技あり」は2つで一本勝ちとなるが、1つ取っただけでも勝敗はほぼ決まる。

 

つまり、黒鉄女子が放った急角度の上段蹴りに「技あり判定」が下されれば、娘の負けがほぼ確定することになる。

 

 

蹴られた瞬間、確かに頭は大きく動いた。

 

 

ただ、実はクリーンヒットは免れている。

 

頭を蹴っ飛ばされたというよりは、蹴られた方向に自ら身体をそらせ、威力を逃がしていたのだ

 

しかも、ヒットしたのは「足の甲」ではなく「側面」だ。

 

これを審判団がどうみるか。

 

 

主審は慌ただしく、両副審に向かって指をさし「技ありの有無」を確認する。

 

僕はゴクリと生唾を飲む。

 

 

結果、旗は下に振られた

 

 

セーフだ。

 

本当に危なかった。

 

 

とはいえ、審判団の印象はいまので完全に黒鉄女子に傾いた。

 

この調子で押され続けば、判定負けは濃厚だ

 

 

次回に続く

無職父と小5女子の我流空手|わずか半年でトーナメント決勝へ|相手は偉大で巨大

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こんにちは。
 
プーです。
 
11月以降お届けしている親子空手の連載も、いよいよ大詰めを迎えました。
 
優勝をかけたトーナメントの最終決戦です。
 
娘の前に立ちふさがるのは、決勝まで破竹の勢いで勝ち上がってきた「最強の相手」。
 
間違いなく、本トーナメントにおける「優勝候補の筆頭」でした。
 
今回は、そんな最強のライバルとなった対戦相手の強さの秘密に迫ります。
 
 
では、ご覧ください。
 
(失礼な表現が多々ありますので、最大限プライバシーに配慮し、事実関係を少しぼかしています。どうかご了承ください)
 
前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。姉は主催団体所属選手を激戦の末下し、ついに決勝の舞台に上った。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

神に愛されし巨躯

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神に愛されしその巨躯(きょく)を見上げ、皆、口々に称えた。

 

いわく「人間山脈」と。

 

いわく「進撃の巨人」と。

 

いわく「黒鉄(くろがね)の城」と。

 

 

背丈は5尺30寸ある。

 

小5女子の平均身長を20㎝以上上回る高さだ。

 

骨格も大きい。

 

体重は推定15貫といったところか。

 

だとすれば、小5女子の平均体重を実に20㌔も上回る計算になる

 

 

日本人離れしたタフな体格は、まるで「フルコンタクト空手の申し子」のようだ。

 

女子の体格を評価するのはタブーともいえるが、格闘技の世界においては、強さを測る上で避けて通れない指標となる。

 

 

現に、大人顔負けの体格を誇る「黒鉄女子」は、本トーナメントで大暴れし、決勝まで上り詰めた。

 

それも、全試合「無類の強さ」をみせつけながらだ。

黒鉄女子 強さの秘密

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黒鉄女子の強さを紐解くと、3つの秘密が浮かび上がる。

 

まず第1は長身だ。

 

一般的に蹴りの威力は「蹴りやすい順」に増し、「下段>中段>上段」という図式が成り立つ。

 

仮に、中段蹴りを「頭部」にヒットさせることができれば、ダメージを倍増させることができる。

 

そして、これを実現する唯一の方法こそが「身長差」にほかならない。

 

極端に背の高い選手の場合、中段蹴りの威力そのままに、上段蹴りを放つことができるのだ。

 

 

第2は、リーチの長さ。

 

手足が長ければ、相手の攻撃が届かない距離から一方的に自分の突きや蹴りを当てることができる

 

安全なところから一方通行で繰り出される攻撃は、よほどの練度がない限り「受けるのが精いっぱい」になるだろう。

 

 

第3はいわずもがな「圧倒的な体重差」だ。

 

(あくまでも推定値だが)彼女の体重は、平均的な小5女子と比較して約20㌔の差がある。

 

ボクシングでいえば、「10階級以上」開きのある計算だ。

 

つまり、ここまで体重差がある場合は勝負にならず、本来、試合としても成立しないのだ

 

黒鉄女子をみて僕が「インチキだ!」と叫んだゆえんも、そこにある。

その強さ、鬼神のごとく

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実際、「黒鉄女子」は決勝に至るまでの試合で鬼神のような強さをみせた。

 

とくに、高所からスコールのように降り注ぐ彼女の巨大なパンチは、隕石群の落下を連想させるほど凄まじかった。

 

また、彼女の放つ中段蹴りは対戦相手の頭をガードごと薙ぎ払うほど強烈で、対戦相手の戦意を削いだ。

 

 

まさに難攻不落の要塞だ。

 

まるでゼビウス軍の浮遊要塞「アンドアジェネシス」だ。

 

風雲たけし城だ。

 

 

かくして、黒鉄女子と戦った子たちは、怒涛のような彼女の攻撃を攻略できず、防御一辺倒の状況に追い込まれ、なすすべもなく敗退していった。

王者の風格も

黒鉄女子は娘と同じオレンジ帯ながら、貫禄も十分だ。

 

対戦相手と握手を交わす試合後のやり取りでは、健闘を称えるというよりも、どこか「王者からの激励」を彷彿させた。

 

セコンドにつく指導者も、彼女の勝利を確信している節があり、試合中ほとんど激を飛ばさずにいた。

 

時折、拍手を送る程度で、腕組みしながらじっと鬼神のような戦いぶりを見守っていた。

最終決戦へ

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そんな「生まれついての王者」と娘は戦うのだ。

 

半年間、娘に地獄のような特訓を強いてきたとはいえ、才能が努力を凌駕する現実もある。

 

娘も比較的大きい方だが、体格差は歴然としている。

 

相手にとって不足はない。

 

 

いよいよ、両雄がコートにならび立つ。

 

最終決戦がいま、始まった。

 

次回に続く。

因縁の対決ついに決着!無職父と小5女子の親子空手|身内びいき懲らしめ決勝進出なるか?

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こんにちは。

 

プーです。

 

2週間ぶりくらいでしょうか。

 

更新できず、大変申し訳ありませんでした。

 

ちょっとした事件に巻き込まれ、「にっちもさっちも」いかない状態にありました

 

おまけにスマホをトイレに落とすなど、最近本当にろくなことがありません…。

 

引きこもりのような生活のなかでも、何かしらのハプニングに見舞われるのが不思議です。

 

今回の事件に関しては、いつか詳しく書きますが、とにかく、まずは連載の続きです

 

 

最終回まで本当にあと少しです。

 

最後まで書き切ります。

 

 

さて、今回の内容ですが、ついに娘と主催団体選手との「因縁の対決」が決着します。

 

「疑惑の判定」に涙を飲んだ弟に続き、娘の本戦も「大人の事情」による不可解な判定が下されました。

 

ここまで必死に空手の稽古に打ち込んできたプー姉弟の努力は、理不尽な大人の都合によって、水泡に帰してしまうのでしょうか。

 

では、ご覧ください。

 
前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。姉は主催団体所属選手と準決勝でぶつかり、引き分けにもつれ込む。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

ありえない判定

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本戦で圧倒的な強さをみせた娘だったが、副審の一人がなぜか相手選手に軍配を上げた

 

2人の審判が「引き分け」としたため敗退こそ免れたものの、娘の動揺は計り知れない。

 

泣いても笑っても、マストシステムを採用する次の「延長戦」で必ず決着がつく。

 

僕は「何とか気持ちを切り替えてほしい」と願った。

 

 

そんな心配をよそに、娘はフッと息を吐き、肩の力をストンと抜く。

 

…あれ?

 

どこかでみた光景だ。

 

はて、どこだったか。

 

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ポク

 

 

ポク

 

 

ポク

 

 

ポク

 

 

ポク

 

 

チーン

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そうだ、思い出した!

 

拳法との異種格闘技戦を演じた「合同組手稽古会」だ。

 

乱暴者のジョニー君に、娘が怒りを爆発させた「あのときの背中」だ。(過去記事参照

 

成長

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このとき娘は「勝つことだけを考えていた」という

 

激しく動揺していたのは、「親」だけだった。

 

僕は顔面蒼白だっただろう。

 

妻は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、頭上に「?」がついていた。

 

 

娘は、知らぬ間にとても逞しく育っていたのだ

 

気づけばニャンコパンチを卒業し、雷光のような鋭い蹴りを身に付け、体当たりのような重い膝蹴りを放つようになっていた。

 

昇級審査でみせた昭和の戦闘ロボのようなぎこちない動きも、いまはもう遠い昔だ。

 

 

毎日一緒にいるためか、とくに心の成長は、このときまで気づかなかった。

 

地獄のような厳しい稽古を続けたこの半年間が、彼女のハートを強くしたに違いない。

 

僕は目頭が熱くなった。

 

フルパワーの延長戦

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はじめ!

 

延長戦は1分しかない。

 

 

娘は膝を上げて突進する。

 

相手選手の一本調子の攻撃は、もう攻略済みだ。

 

相手のパンチを迎え撃つ娘のカウンターは、さきほどよりもはるかに重い。

 

娘のフルパワーをみるのは、これで3度目だ

 

 

のけぞる対戦相手に、今度は「三日月蹴り」を突き立てる。

 

娘らしからぬ一方的な攻撃は、「必死さゆえ」だ。

 

もっと強く、もっと効かせる――

 

勝利への揺るがぬ意志がにじむ。

 

ここまで歴然とした力の差をみせつければ、八百長しようにも、もう審判の付け入る隙はない

 

ところが、僕の想定を上回る事態が起きた。

ホイッスル

ピー!ピー!ピー!

 

相手選手に軍配を上げた先ほどの副審がイラつくようにホイッスルを吹き、旗をゆらして娘の反則を指摘した。

 

主審も「ひっかけがあった」と手振りで示す。

 

もちろん、ありもしないでっち上げの反則だ。

 

ここまで露骨なやり方は、完全に計算外だった

 

 

子ども同士が命を燃やして向き合う真剣勝負に、「三たび」大人が水を差す。

 

神聖な空間に割って入ってまで、この大人たちは何がしたいのだ。

 

これまでも、子どもの努力を踏みにじる行為を何食わぬ顔で繰り返してきたのではないか。

 

仮に自分の子どもが同じことをされても、胸が痛まないのだろうか。

 

 

怒りを通り越し「フルコンタクト空手への失望」を感じた矢先、さらに意外なことが起きた。

空手家の良心

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Pee!

 

Pee!

 

Pee!

 

Pee!

 

Pee!

 

Peeeeeeee

 

一段けたたましいホイッスルをもって、もう一方の副審が反則のジャッジに異を唱えたのだ

 

「汚い真似はもうやめろ」といわんばかりに。

 

ホイッスルは主審が娘の反則を取り消すまで、怒り狂ったようにいつまでも鳴り続けた

 

その異様な光景に、会場は少し騒然とする。

 

結果、主審は「セーフのポーズ」をとって反則を取り消す

 

その数秒後に「赤い袋」が投げ込まれ、試合は終了した。

 

 

判定は3ー0。

 

娘の勝利で、因縁の対決が決着を見た。

対戦相手の涙

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師範代と娘とともに、対戦相手のもとに向かうと、両腕で顔を覆って号泣する姿があった。

 

この日の試合にかけて、厳しい稽古を積んできたのだろう。

 

一度つかみかけた勝利が、手から零れ落ちた悔しさもあったに違いない。

 

当然ながら、子どもに一切の罪はないのだ。

 

相手選手の両親も互いの健闘を心から称えているようすで、「ありがとうございました」の言葉には一片の曇りもなかった。

 

「あっ、ありがとうございました」と急いで頭を下げた僕は、自分だけが汚れている気分になった。

 

まあ、あれでもし「負け」にされていたら、受け止めはまた違ったものになったかもしれないが…。

 

娘も罪悪感を感じているのか、どことなく遠慮気味に握手を交わしていた。

 

小さなガッツポーズ

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かくして、何となく喜ぶタイミングを逸してしまったプー親子だったが、意外なところで、娘の勝利に小さくガッツポーズした人がいた。

 

決勝で娘と戦う、名門空手道場の子だ。

 

それは、人間山脈を彷彿させる、神に愛されし体躯――

 

コートにそびえるその姿は、まるで黒鉄の城だ。

 

オレンジ帯だったのがうれしかったのか。

 

それとも「主催団体の選手」でなかったのが幸いだったのか。

 

「審判を味方につけた相手以上に、厄介な存在かもしれない」と僕は思った。

 

次回に続く。

無職父と小5娘の【我流空手】因縁の対決、最悪の一戦に|トーナメント準決勝

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月以降お届けしているプー家のドキュメント「親子空手編」の連載も、残すところあとわずかです。

 

今回は、準決勝までコマを進めた娘のトーナメント試合の話です。

 

対戦相手は主催団体の所属選手で、我が「中二病空手」にとっては絶対に負けられない相手です(前々回記事参照 )。

 

さて、娘はこの因縁の対決を制し、決勝に勝ち上がることができるのでしょうか。

 

では、ご覧ください。

 
前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。姉は弟の敵となる主催団体所属選手と準決勝でぶつかった。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

 

因縁の対決

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「疑惑の判定」で敗退した息子の試合の一件から、娘は本トーナメントの主催団体を「コブラ」と呼ぶようになった

 

コブラ会とは、空手映画の最高峰「ベスト・キッド」に登場する、主人公と敵対関係にある「悪名高き道場」だ。

 

もしこの一件が僕らの一方的な逆恨みであれば、これ以上にみっともない話はないのだが、「身内びいきの判定」と信じてやまない娘は、弟のかたき討ちを固く誓う。

 

つまり、我らが「中二病空手」とコブラ会との戦いは、「因縁の対決」になるわけだ。

 

 

もうひとつ、このバトルを熱くさせているのが、「入賞を賭けた一戦」というシチュエーションだ

 

8人の少数で優勝を競う「小5女子初心の部」には、3位が存在しない。

 

つまり、2回戦で負けるとお土産は何も出ないことになる

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もっとも、親や指導者が「入賞」を強く意識すると、あまりロクなことにならないのも確かだ。

 

ある道場では、入賞を逃した子供に対し、指導者が「体罰事件」を起こしたと聞く。

 

 

とはいえ、プー姉弟はこの6カ月間、本当によく頑張った。

 

たとえ空手経験のない父が教える稽古であっても、親子が注いだ情熱は紛れもなく本物だ

 

そんな努力の成果を「形として残したい」というのが、僕らの切なる願いだった。

最悪の相性に不安も

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会場では、すでにコートのなかで両者が向き合い、火花を散らしている。

 

コブラ会へのリベンジに燃える娘は、試合開始と同時に、相手に飛びかかるつもりだ。

 

彼女の背中には、闘気が立ち上っている。

 

 

とはいえ、この一戦に不安がないと言えば嘘になる。

 

コブラ会の選手は、技あり狙いの練習を続けてきた娘にとって、相性が悪い。

 

本当に、あの相撲攻撃を攻略できるのか――。

 

だが、ここまでくれば娘を信じるしかないのだが…。

試合開始

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「はじめ!」

 

期待と不安が交錯するなか、ついに戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

相手選手は上段の横蹴りを狙って、ケンケンで前に出る。

 

これを防ぐため、娘も片膝を上げながらケンケンで相手に迫る。

 

互いの足が空中で接触した。

 

 

次の瞬間、予想通り蟻地獄のような「相撲攻撃」が始まった。

 

「トン」

「トン」

「トン」

 

体重の乗ったつるべ打ちが娘の胸に連続ヒットする。

 

娘は何かを狙っているのか、攻撃を避ける気配はない。

 

肘を内側に絞り込む格好で腰を引き、ぐっと耐えている。

 

その姿をみて、やっとピンときた。

 

彼女は、相手の打撃のテンポを測っているのだ

 

僕は感動と興奮で、涙と鼻血が同時に出そうになった。

 

奥義「つるべ返し」

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前回、娘の大きな痣(あざ)をめぐり「学校で少し騒ぎになった」と書いた。

 

実は痣(あざ)の原因は、姉弟でカウンターを取り合う過酷な修行にあった。

 

相手の打撃にあわせて鋭く打ち返す作業を、ひたすら続けるのだ。

 

 

「スピードは100%」「力は50%」という約束なのだが、必ずと言っていいほど途中でヒートアップし、最後は喧嘩のような打ち合いになる

 

弟は小2ながら、天性の「硬いパンチ」を持っているだけに、小5の姉も無傷では済まない。

 

泣きじゃくりながら打ち合う2人の姿に、毎回胸が潰れそうになった。

 

おかしなスイッチが入って「やめろ!」と大声で叫び、途中で練習を切り上げたこともあった。

 

そんな涙の結晶が、連続でカウンターを繰り出す秘奥義「つるべ返し」として完成をみたのだ。

 

「トン」

「ドン」

「トン」

「ドン」

 

コブラ会の選手は、たまらず後方に退いた。

戦慄の判定

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娘はさらに前蹴りで追い打ちをかける。

 

対戦相手が体勢を立て直したところで、今度は相手の左の太ももに重いローキックを叩きこむ。

 

対戦相手は「くの字」の体勢で、再び方向に退く。

 

誤魔化しようのないほど、効いている。

 

 

再びコブラ会の黄帯女子は相撲攻撃をしかけるが、娘はこれを膝蹴りで迎撃する。

 

さらに、娘がパンチで追撃したところで、ホイッスルの音がけたたましく響いた。

 

あまりの突然のことに、一瞬、理解が追い付かなかった。

 

 

信じられないことに、主審を含む2人の審判が娘の反則をとったのだ

 

ひっかけがあった」というが、そんな事実は絶対にない。

 

 

主審:「注意1、気を付けるように」

 

 

見間違える要素すらない、まるで言いがかりのようなジャッジに、さすがの娘も動揺を隠し切れずにいた。

 

 

それでも、その後も娘が有利に試合を進めた。

 

そして、いよいよ判定のときがきた。

 

父:「いくらなんでも、勝ちだろう」

 

そんな僕の甘い見通しは、見事に裏切られた。

 

判定の結果は、引き分けが「2」、そして、相手選手の勝ちが「1」

 

 

僕は驚きを通り越し、この結果に戦慄を覚えた。

 

悪夢の再来だ。

 

かくして、娘の試合は延長戦に突入するのであった。

 

続く

無職父と娘の我流空手|半年間の猛稽古、初戦突破なるか?

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月以降連載形式でお届けしてきた親子空手編も、娘のトーナメント試合のゆくえを残すのみとなり、いよいよ大詰めを迎えました。

 

今回は、その「初戦」のもようです。

 

娘にとって初の対外試合となったこの一戦ですが、「まさかの初戦敗退」がないとは言い切れません。

 

「疑惑の判定」により準決勝で敗退した息子のケースもあります

 

娘の試合はどうだったのでしょういか。

 

ではご覧ください。

 
前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝で敗退。微妙な判定に怒髪天をつく娘の試合やいかに。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

あざに疑惑、奇異の目も

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激しい稽古の翌日、プー姉弟の身体が痣(あざ)だらけになることも少なくない。

 

最初の頃は「痛い」だの「青くなった」だのと訴えていたが、空手の稽古が生活の一部になるにつれ、2人とも自分の痣に関心を持たなくなった。

 

ただ娘の腕が「ぶち犬」の模様のようになったときには、本人の意識とは裏腹に、学校でちょっとした騒ぎになった。

 

肌の露出が多い夏場だったため、模様のようなあざが目立ってしまったのだ。

 

 

真っ先に娘を心配してくれたのは、担任の先生だ。

 

 

先生:「その痣、本当にカラテだな?」

 

娘:「うん。本当」

 

先生:「先生、信じていいな?カラテだな?」

 

娘:「うん。空手です」

 

 

無職の僕が「児童虐待」を疑われると、あまりにも生々しく、洒落にならないが、子どもの変化に気づき、一歩踏み込んでくれる先生は、とてもありがたい存在だ。

 

仲のいい友達も「どうしたの、その痣!大丈夫?」と親身になって心配してくれたという。

 

 

その一方で、あまり話をしたことのない一部の友達は、いけないものを見たときのように目をぎらつかせ、娘にこう迫ったそうだ。

 

「うわ、大きなあざ!それ、どうしたの?隠しても駄目。私には本当のことを言って

 

 

かくして、もともと近所でおかしな噂が立っていた空手ー家の風聞(ふうぶん)は、学校へと広がり、より多くの奇異の目にさらされることになった。

 

はじまる小5女子初心の部

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さまざまなものを犠牲にしながら稽古に明け暮れた親子空手が、ついに檜舞台(ひのきぶたい)で試されるときがきた。

 

息子は準決勝で敗退してしまったが、我らが「中二病空手」には、まだ娘がいる

 

体中に痣(あざ)をつくり、世間の目に耐え、稽古のキツさに涙を流し、真夏の暑さにもめげず、日々積み重ねた努力の末、ようやくここに至ったのだ。

 

いま、威風堂々(いふうどうどう)とコートに立つ娘の姿は、かの白いモビルスーツのようだ。

 

 

娘が出場するのは「小5女子初心の部」だ。

 

このクラスには、名門道場や主催団体の所属選手ら計8人が参加していた。

 

 

最大のライバルは、先ほどみた巨大な体躯の選手だろう。

 

身長は160㎝近くあった。

 

 

ほかに気になるのが、主催団体の所属選手だ。

 

息子が涙を飲んだ「疑惑の判定」のこともある(前回参照)。

 

大きな実力差を示さない限り、勝ちは薄いとみて間違いないだろう。

 

 

心のどこかで「初心の部」を甘く見ていたが、トーナメント制覇のハードルは想像以上に高かった。

 

初戦の相手は白帯

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初戦の相手は白帯だ。

 

娘にとっては、人生初の公式戦となる。

 

そんな記念すべき最初の相手が、いま娘の前に立っている。

 

娘よりも背丈が小さく、線もずっと細い。

 

負ける要素はない。

 

そもそも、空手の練度がまるで違うのだ

 

主審:「はじめ!」

 

試合がはじまると、その実力差ははっきりした。

 

 

娘:「シッ!」

 

ボスッ!

 

対戦相手:「グッ…」

 

 

鳩尾(みぞおち)に娘のパンチを受けた相手選手は腰を曲げ、後ずさった。

 

明らかに効いているが「技あり」のコールはない。

 

 

娘は初試合とは思えぬほどの落ち着きを払い、相手との間合いをさらに詰める。

 

「手数!手数!」と叫ぶ師範代の指示が聞こえないほど試合に集中している。

 

一撃ごとの打撃は昭和の戦闘メカ並みに重く、相手を一方的に押し下げる展開に。

 

 

ただ、重い一撃の先にみる彼女の狙いは「ダウン(=一本)」ではなさそうだ。

 

ひたすら地味な攻撃を繰り返しているのは、「対戦相手への気遣い」ではなく、冷静たる証にほかならない。

 

派手に仕留めるのではなく、ひとつずつ、確実に勝つ――。

 

そんな決意をにじませる娘の背中が、一回り大きく見えた

 

 

判定の結果、2-0(引き分け1)で娘が勝利した。

 

僕から見れば最小限の力で勝った印象だが、娘の圧倒的な強さは周囲にみえなかったに違いない。

 

得意の上段蹴りは一度も出しておらず、温存する形になった。

次の対戦相手は例のアレ

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娘の試合が終わり、続く第2試合で、気になる「あの子」が出てきた。

 

主催団体所属の選手だ

 

気になるあの子は黄色帯で、対する女子は青帯だ。

 

どっちの色が格上なのかは分からない。

 

 

「はじめ!」という主審の合図とともに、セオリー通りに上段前蹴りが交差する。

 

 

そして次の瞬間、あの攻撃が始まった

 

準決勝で息子を破った恐怖の「相撲攻撃」だ!

 

「トン」

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「トン」

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「トン」

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一本調子のツッパリ攻撃に、先の嫌な記憶がよみがえる

 

青帯女子は、一定のリズムで繰り出される正拳突きに反撃の機会を奪われ、苦し紛れの下段回し蹴りで墓穴を掘り、有効打をまったく出せぬまま、終始後退を余儀なくされた。

 

ルールの虚をつく残酷な展開に、僕は思わず目を覆った。

 

「嫌な予感」ほど的中するものだが、今回のケースはまさにその典型といえるだろう

 

次の相手は、この子で決まりだ。

 

このとき僕は、娘が相撲攻撃を攻略できるか、少し心配になった。

 

 

次回に続く。

無職父の我流空手|息子の最終決戦、起死回生の一撃も|優勝のゆくえは?

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月以降連載形式で続けている親子空手編ですが、今回は息子の最終試合のもようをお届けします。

 

今大会では、息子にとって準決勝が最大の山場になりました

 

理不尽なジャッジに激しく動揺したまま、延長戦に突入した形になりましたが、気持ちの弱さを克服し、見事「優勝」をつかみ取ることができたのでしょうか。

 

上記の写真、流したのは悔し涙か、それともうれし涙だったのか――。

 

それでは、ご覧ください。

前回までのあらすじ

「スポ根漫画」のような稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

2人の成長はそこからさらに加速。

とくに娘は合同組手稽古会で男子を相手に圧倒的な強さをみせつけたほか、夏季特別稽古で王者を相手に変則型の上段蹴り「逆雷」を決める一幕も。

そんな2人が満を持してトーナメントに出場した。先陣を切った弟は準決勝まで進み延長戦にもつれ込む展開に。「大人の事情」を打ち破り、トーナメント制覇なるか。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

延長戦へ

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泣いても笑っても、この戦いで勝敗は決まる。

 

延長戦は、3人の審判が必ずどちらかに軍配を上げる「マストシステム」を採用しているためだ。

 

息子にとって今大会での延長戦は初となるが、先ほどの理不尽な判定にひどく動揺している。

 

緊張で重心が上がっているのは、遠巻きに見てもわかるほどで、まったく地に足がついていない。

 

「はじめ!」

 

試合は、最悪の状態で始まってしまった。

相撲攻撃の秘密

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こちらに「相撲攻撃対策」ができていないとみて、敵陣営は正拳突き一本での攻撃を指示する。

 

敵陣営:「それでいい!絶対に引くなよ!」

 

 

相撲攻撃のからくりは、実は「立ち方」にその秘密がある。

 

足を膝より後ろに保ちながらグッと腰を立て、強制的に「前荷重の姿勢」をつくっているのだ。

 

これにより、身体は自然と前へ前へと傾くことになる。

 

強い圧がかけられるというより、むしろ「自らの意志で後退できなくなる」といった方が正確かもしれない

 

また、攻撃に体重を乗せやすくなるメリットもある。

 

 

ただし、この身体操作にも弱点もある。

 

 

とくに弱いのは直線的な攻撃で、「膝蹴り」「前蹴り」「横蹴り」などを出せば、ダメージを倍増させながら相手を押し返すことができる。

 

 

が、息子は何かに取りつかれたように、ひたすら「上段回し蹴り」で応戦していた。

 

父:「うわ、最悪の展開だ…」

 

実は打撃による圧のかけあいで「回し蹴り」ほど不利な攻撃はない

 

回し蹴りを出す最中にパンチを打たれると、簡単に後退させられてしまうためだ。

 

 

セコンドにつく師範代からは、絶叫のような声で指示が飛ぶ。

 

空手のことをあまり知らない妻も珍しく、大声で同じことを叫んでいた。

 

師範代:「蹴りは駄目だって!強いパンチを打つ!強いパンチだって!

妻:「パンチ、パンチよ!パンチを打ちなさい!

 

テンパりながら必死で戦う息子の耳に、大人たちの悲痛な叫びは届かなかった。

かわいそうな像

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息子の試合のさなか、僕は国語の教科書に載っていた「かわいそうな像」の話を思い出した。

 

戦時下の上野動物園を舞台にした、象の殺処分をめぐる悲しい物語だ。

 

「猛獣が逃げ出したら危ない」との理由から、動物が次々に「毒入りの餌」で殺されていくなか、象のトンキーとワンリーだけが毒リンゴを口にせず、生き残る。

 

その後賢いトンキーとワンリーは、餌を求めて飼育員に必死で芸をみせるが、(涙ながらに)放置され、衰弱の末、あの世に旅立ってしまう。

 

当時、涙をこらえるのに精いっぱいだった僕は、意地悪な先生に詰問(きつもん)を受けた。

 

 

先生:「トンキーとワンリーは、なぜ芸を続けたのですか?」

 

僕:「…。」

 

先生:「質問の意味わかる?トンキーとワンリーは、なぜ、芸を続けたのですか?」

 

僕:「…。」

 

先生:「さあ、答えなさい!トンキーと、ワンリーは、なぜ、芸を続けたのですかっ!」

 

 

ひたすら上段蹴りを繰り返す息子が、かわいそうな像の姿に重なった。

 

勝利の果実は、上段回し蹴りによって得られる」。

 

こうなったのは、師である僕のせいだ。

ラスト3秒前

正拳突きを出し続けるよりも、上段蹴りを出し続ける方が遥かに体力を消耗する。

 

一本調子の正拳突きに押され続ける息子は、手数の面でも負けている。

 

疲労の色も濃い。

 

 

そして、残り時間はあとわずか。

 

そこで奇跡が起きる

 

相手の突きを大きなバックステップでかわした後、残りの体力のすべてを使って、渾身の左上段蹴りを繰り出した

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足はまっすぐに伸び切り、バスンという音とともに、相手の頭を吹っ飛ばした。

 

土壇場で、カウンターの左上段蹴りがクリーンヒットしたのだ。

 

父:(;゚Д゚)「入った!

 

師範代:(''Д'')「入った!

 

妻:(♡。♡)「入った!」

 

 

相手の右あごにさく裂した左の上段回し蹴り。

 

実は、左の上段蹴りを鍛える初心者は少ないとの判断から、奥義よりも多くの時間を割いて練習してきた我流空手の「隠し玉」だ。

 

大勢が見ている前で、カウンターでミートした上段蹴りに対し、「浅い」「弱い」などの言い訳はできまい。

 

この瞬間、僕は息子の勝利を確信した。

驚愕の結末

あらためて動画で確認したので間違いない。

 

起死回生の一撃が決まったのは、終了までの残り時間わずか3秒のことだった。

 

左上段のカウンターがクリーンヒットしているのは、上段3枚の連続写真が証明するところだ。

 

 

ところが、ジャッジは違った。

 

 

審判は露骨にとぼけてみせた。

 

 

両副審も「見てみぬふり」を決め込んでいる

 

 

父:「え!?

師範代:「え、おい、入ったって!入ってる、入ってる!

妻:「???」

 

 

結果、息子は「主催団体の所属選手」を相手に、3ー0の判定で負けた。

 

あいさつに来た対戦相手の子は、泣きじゃくる息子と不機嫌に握手を交わし、その場を去った。

 

死力を尽くした相手に、なぜそんな態度を取ったのか。

 

その理由は本人にしか分からない。

我流空手の敗北

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ある保護者から聞いた話では、この手の微妙な判定は、フルコンタクト空手の「あるある話」という。

 

露骨な身内びいきも明らかな誤審も「起こり得ることとして覚悟しておくべき」とまで言われた。

 

ただし、相手の子が強かったのは紛れもなく、作戦で負けていたのも間違いない。

 

事実決勝は、息子が戦った主催団体所属選手の圧勝で終わった。

 

 

かくして、半年間命を燃やして空手の稽古に励んだ息子は、準決勝で敗退し「3位」という結果になった。

 

これは、中二病で無職の父が編み出した「我流空手の敗北」でもある

 

 

よその子が泣いているのを見て、もらい泣きしそうになった僕だが、不思議と涙は出なかった。

 

息子は大号泣し、トイレに隠れたまま出てこなくなったが、今回の結末は、彼にとって、ゴールではなく通過点に過ぎない。

 

成長の糧となる経験の一つだろう。

 

ともすると、もっと強くなるためのきっかけになるかもしれない。

 

 

ただ、この理不尽な結末を消化できず、娘はいつになく怒りに燃えていた。

 

「私が弟の敵(かたき)をとる」

 

娘の闘志に火がついた。

 

次回に続く